概要

土地探しにおいて、自然災害のリスクを把握することは非常に重要です。2020年8月の宅地建物取引業法施行規則の改正により、不動産取引時に水害ハザードマップにおける物件の所在地を説明することが義務化されました※1。

この記事では、ハザードマップの種類と確認方法、リスクがある土地にどう向き合うべきか、水害保険との関係を整理します。

ハザードマップの種類

ハザードマップは災害の種類ごとに作成されています。土地購入前に確認すべき主なものは以下の5種類です。

洪水ハザードマップ

河川が氾濫した場合の浸水想定区域と浸水深を示した地図です※2。

浸水深色の目安想定される被害
0.5m未満薄い黄色床下浸水。大人の膝下程度
0.5〜3mオレンジ床上浸水〜1階水没。避難が必要
3〜5m2階床上まで浸水。命に関わる
5〜10m濃い紫2階以上が水没。極めて危険
10m以上黒に近い紫3階以上でも危険

2015年の水防法改正により、従来の「計画規模降雨」に加えて「想定最大規模降雨」(1,000年に1回程度の確率)に基づくハザードマップが作成されるようになりました※2。土地を検討する際は、想定最大規模のマップも必ず確認しましょう。

内水ハザードマップ

下水道や排水路の処理能力を超える降雨により、市街地に水があふれる「内水氾濫」のリスクを示した地図です。

  • 河川から離れていても浸水リスクがあります
  • 低地や窪地で特にリスクが高い
  • 作成していない自治体もあるため、有無を確認しましょう

土砂災害ハザードマップ

がけ崩れ(急傾斜地の崩壊)、土石流、地すべりの危険がある区域を示した地図です※3。

区域名称制限
土砂災害警戒区域(イエローゾーン)警戒区域警戒避難体制の整備が必要。建築制限はない
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)特別警戒区域居室のある建築物は建築確認時に構造規制あり。開発行為の許可が必要

レッドゾーンの土地は要注意です。建築不可ではありませんが、構造規制により建築コストが上がります。また、資産価値が下がりやすく、将来の売却が難しくなる傾向があります。

津波ハザードマップ

津波が発生した場合の浸水想定区域と浸水深を示した地図です。沿岸部の土地を検討する場合に確認します。

津波災害警戒区域(オレンジゾーン)と津波災害特別警戒区域(レッドゾーン)が設定されることがあり、特別警戒区域では建築物の構造規制が課されます※4。

液状化マップ

地震時に地盤が液状化する可能性のある地域を示した地図です。すべての自治体が作成しているわけではありませんが、大都市圏を中心に公開が進んでいます。

液状化の可能性リスク
高い地盤改良や杭基礎が必要になる可能性が高い
やや高い地盤調査の結果次第。改良が必要になることがある
低い通常の基礎で対応できることが多い

液状化リスクの高い地域は、埋立地、旧河道、砂質地盤が浅い位置にある低地に多い傾向があります。

ハザードマップの確認方法

ハザードマップポータルサイト

国土交通省が運営するハザードマップポータルサイトhttps://disaportal.gsi.go.jp/)※5で、全国のハザードマップを一括で確認できます。

2つの機能があります。

機能特徴
重ねるハザードマップ洪水・土砂災害・津波・道路冠水など複数の災害リスクを地図上に重ね合わせて表示。住所を入力するだけで確認可能
わがまちハザードマップ各市区町村が作成したハザードマップへのリンク集。より詳細な情報が得られる

市区町村の窓口

ハザードマップポータルサイトに掲載されていない情報(内水ハザードマップ、液状化マップなど)は、市区町村の防災課や都市計画課で確認できます。紙の冊子で配布している自治体もあります。

地盤情報

地盤調査の記事で紹介した「KuniJiban」や、各都道府県の地盤情報サイトで、近隣のボーリングデータを確認できます。過去の地盤調査結果から、液状化リスクや軟弱地盤の状況を推定する手がかりになります。

リスクがある土地は買ってはいけないのか

ハザードマップでリスクが示されている土地は「絶対に避けるべき」とは限りません。ただし、リスクの程度に応じた判断が必要です。

リスクの程度別の考え方

リスクレベル判断の目安
非常に高い洪水浸水深3m以上、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)避けたほうが無難。購入する場合は追加コストと将来の売却難を覚悟する
高い洪水浸水深0.5〜3m、液状化リスク高い対策費用を予算に織り込み、保険加入を前提に検討
中程度洪水浸水深0.5m未満、液状化リスクやや高い建築・保険で対応可能なことが多い。過度に恐れる必要はない
低いハザードマップ上でリスク表示なし基本的に問題ないが、想定外の災害はあり得ることを認識しておく

対策の例

  • 基礎の嵩上げ — 想定浸水深分だけ基礎を高くする(費用は50〜150万円程度の追加)
  • 地盤改良 — 液状化対策として杭基礎や地盤改良を実施する
  • 保険加入 — 水災補償を付けた火災保険に加入する
  • 防水設備 — 止水板(防水板)の設置、エアコン室外機の高所設置など

日本の国土の特性

日本は国土の約7割が山地・丘陵地であり、平野部は河川の氾濫原に形成された沖積平野が多くを占めます。都市部の多くは何らかの水害リスクを抱えているのが実情です。

「リスクゼロの土地」を求めるとエリアが極端に限定されるため、リスクを正しく理解した上で、許容できる範囲かどうかを判断することが現実的です。

たとえば東京都台東区(浅草周辺)は荒川・隅田川の洪水ハザードマップで広範囲が浸水想定区域にかかりますが、古くからの住宅密集地であり、現在も多くの住宅が建っています。本サイトではハザードマップにかかる土地を「買ってはいけない」とは断言しません。

ただし、ハザードマップ上のリスクは住宅の認定制度や税制優遇に影響するという明確なデメリットがあります。

長期優良住宅の災害配慮基準

2022年2月の法改正により、長期優良住宅の認定基準に**「自然災害配慮基準」**が追加されました※7。

区域長期優良住宅の認定
地すべり防止区域、急傾斜地崩壊危険区域、土砂災害特別警戒区域原則として認定対象外
災害危険区域所管行政庁の判断により、認定除外を含めた対応
浸水想定区域所管行政庁が独自の基準を定める。嵩上げ等の対策を条件に認定可能な場合がある

浸水想定区域では一律に認定が不可能になるわけではありませんが、所管行政庁が求める対策(地盤の嵩上げ等)には追加費用がかかります。また、行政庁によっては厳しい基準を設定している場合もあるため、土地購入前に所管行政庁に確認することをおすすめします。

長期優良住宅が取れない場合の影響

長期優良住宅の認定が得られないと、以下の優遇が受けられなくなります※8。

項目長期優良住宅省エネ基準適合住宅(一般)
住宅ローン控除の借入限度額(2025年入居・一般世帯)3,500万円2,000万円
住宅ローン控除の借入限度額(2025年入居・子育て世帯)4,500万円3,000万円
登録免許税の軽減保存登記 0.1%保存登記 0.15%
不動産取得税の控除額1,300万円1,200万円
固定資産税の減額期間新築後 5年間(マンションは7年間)新築後 3年間(マンションは5年間)

借入限度額の差は、13年間の控除総額で最大約20万円の差になります(借入限度額の差額 × 0.7% × 13年)。さらに固定資産税の減額期間が2年短くなることを考慮すると、トータルの影響はそれ以上になります。

建物自体の性能が高くても、立地のリスクによって認定が取れない可能性がある点は、土地選びの段階で把握しておくべきです。

水害保険との関係

火災保険の水災補償

住宅の水害に対する備えは、火災保険の水災補償で対応します。

補償内容一般的な支払い基準
洪水・内水氾濫による浸水床上浸水または地盤面から45cmを超える浸水
土砂崩れによる被害損害が発生した場合

水災補償を外すと保険料が安くなるため、高台の土地など水害リスクが極めて低い場合は外すことも選択肢です。逆に、ハザードマップで浸水リスクがある土地では水災補償は必須と考えるべきです。

保険料への影響

2024年以降、損害保険各社は水災リスクに応じた保険料の細分化(水災料率の地域差拡大)を進めています※6。ハザードマップで浸水リスクが高い地域では、将来的に保険料が上昇する可能性があります。

土地購入時には、保険料の見積もりも含めたトータルコストで判断することが重要です。

地震保険

地震による液状化被害は火災保険の水災補償では対象外です。地震保険に加入する必要があります。地震保険は火災保険とセットでの加入が必要で、保険金額は火災保険の30〜50%の範囲で設定します。

重要事項説明での説明義務

2020年8月28日の宅地建物取引業法施行規則の改正により、不動産取引における重要事項説明で、水害ハザードマップにおける対象物件の所在地の説明が義務化されました※1。

説明が義務化されている内容

  • 水害ハザードマップ上での物件のおおむねの位置
  • ハザードマップが存在しない場合はその旨

注意点

  • 説明義務は「洪水」「内水」「高潮」の3種類 — 土砂災害や津波のハザードマップは説明義務の対象外です(ただし、土砂災害警戒区域に該当する場合は別途説明義務があります)
  • リスクの有無についての評価は義務ではない — 不動産会社は「マップ上の位置」を示す義務がありますが、「この土地は安全か危険か」の判断を示す義務はありません
  • 自分でも必ず確認する — 重要事項説明に頼るだけでなく、自分でハザードマップポータルサイトを確認し、複数の災害リスクを総合的に判断しましょう

確認のチェックリスト

土地購入前に確認すべきハザードマップのチェックリストです。

種類確認先確認済み
洪水ハザードマップハザードマップポータルサイト
内水ハザードマップ市区町村の防災課
土砂災害ハザードマップハザードマップポータルサイト
津波ハザードマップ(沿岸部)ハザードマップポータルサイト
液状化マップ市区町村の防災課
過去の浸水実績市区町村の防災課

ハザードマップに加えて、過去の浸水実績も確認することをおすすめします。ハザードマップはシミュレーションに基づく想定ですが、実績は実際に起きた事実です。市区町村の窓口や近隣住民への聞き取りで確認できます。

出典

  1. 宅地建物取引業法施行規則の一部を改正する命令(令和2年7月17日公布、同年8月28日施行)— 水害ハザードマップにおける対象物件の所在地の説明義務化 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_fr3_000074.html
  2. 水防法 第14条(洪水浸水想定区域)、平成27年改正により想定最大規模降雨に基づく浸水想定区域の公表が義務化 https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000193
  3. 土砂災害防止法(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律)第7条、第9条 https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000057
  4. 津波防災地域づくりに関する法律 第53条、第72条 https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000123
  5. 国土交通省 ハザードマップポータルサイト https://disaportal.gsi.go.jp/
  6. 損害保険料率算出機構「火災保険参考純率の改定について」(2023年6月) https://www.giroj.or.jp/
  7. 国土交通省「長期優良住宅認定基準の見直しについて」— 令和4年2月施行の改正で自然災害配慮基準を追加。災害リスクの高い区域での認定制限を規定 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000190.html
  8. 国土交通省「認定長期優良住宅に関する特例措置」— 住宅ローン控除の借入限度額、登録免許税、不動産取得税、固定資産税の優遇内容 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000022.html